2005年秋季企画展「朝鮮陶磁の世界」2005年9月30日(金)~12月23日(金)
 

青花花蝶文瓶 19世紀

開催にあたって

陶磁器は人の手と目と感性で作られてきました。陶磁器が与えるぬくもりは誰しもが実感できるもので、古くから使われてきたその魅力はいまだに多くの人を惹きつけています。  人の手が作り出すものには、生きる過程で得られる哲学や個性が吹き込まれます。生活に必要な道具として絶えず発展してきた陶磁器は、陶工たちによって姿かたちをさまざまに変えました。

 朝鮮陶磁の魅力は、人の手のぬくもりがじかに伝わることといえましょう。そのひとつじっと向き合えば作った人の表情が目に浮かび、手の大きさや厚み、感性まで見えてきます。地理的に中国大陸と日本列島のあいだで長い歴史を育んだ朝鮮半島では、中国陶磁に影響を受け、日本にその技術を伝えました。両者のはざまで独自の発展を遂げた朝鮮陶磁は、あっと驚くような存在感のある壺やただ静かにそこにたたずむ碗、そばにあってほしいと思わせる小さな器物にあふれています。

 このたびの秋季展は、高麗時代(918~1392)を代表する青磁や朝鮮時代(1392~1910)の個性的な粉青磁、そして幅広く展開した白磁の逸品60点が一堂に会します。朝鮮陶磁を愛するみなさまに、ぜひご覧いただきたい展覧会です。


開館情報

 ■会 期    2005年9月30日(金)~12月23日(金)
 ■開館時間   午前10時~午後5時  ※入館は午後4時30分まで
 ■休館日   毎週月曜日、但し祝日と重なる場合は翌日休館。  
 ■入館料   一般500(400)円、大高生400(320)円、小中生400(240)円

 (  )内は20名以上でご来館の団体割引料金です。
 また、事前のご予約にて団体解説も承っております。
 詳しくは高麗美術館(電話075-491-1192)まで。

 ■出展品総数  館蔵品より約60点 

主な出品紹介

青花花蝶文瓶 朝鮮時代 19世紀 高34.0cm
 青花とは白磁の素地に酸化コバルト顔料で文様を描き、透明釉を掛けて焼成したものをいう。白磁生産が始まった15世紀に既に青花がみられ、早くから白磁の装飾に利用された。  しかし17世紀、高価な青花の使用は禁じられ、一旦生産が停滞するものの18世紀には開放され、気品あるものや面白みあるものなど、まさに青花の時代を迎えた。19世紀末期まで青花は表現の手段として、連綿と作り続けられた。



青磁象嵌牡丹文扁壺 高麗時代 13世紀  高28.0㎝
 
  青磁は、918年から1392年まで続いた高麗王朝(高麗時代)のなかで展開した。中国越州窯の技術を導入した高麗青磁は、もともと国内で生産されていた陶器の生産技術を土台としたため、めまぐるしい発展を遂げた。

 

 10世紀頃、高麗の首都である開城を中心に青磁窯が設置され、盛んに生産が試みられた。初期青磁は暗い色調を帯びた粗質なものであったが、しだいに全国に青磁窯が拡大し、生産量の増加とともに青磁の質が向上していった。そして12世紀、「翡色青磁」という翡翠色の青磁や象嵌青磁など、ほかに類をみないほど精巧な磁器を作るに至ったのである。




青磁鉄彩白象嵌唐花文梅瓶 高麗時代 12世紀 高28.0㎝
 梅瓶の名の由来は口が小さく梅枝を挿すのに適しているためとされているが、本来の用途は酒器であるといわれている。梅瓶は中国各地で製作されたが、朝鮮半島では高麗時代にその優品を見ることができ、独自の造形美を展開させている。
 この梅瓶は鉄彩青磁と白象嵌という技法で加飾される。それは成形した器体に鉄絵具を塗り、文様部分を掻き落して、そこへ白泥を塗りつめて青磁釉をかけて焼成したものである。鉄絵具は器体全体にわたるが、ところどころに塗りむらが見え、釉薬の掛かるところは黒釉にも似て鈍く光り、釉の発色は全体に黄みを帯びている。器底部には釉薬は掛からず、砂粒が付着する。この鉄彩青磁に類似する陶片が全羅南道康津郡沙堂里、同道海南郡珍山里窯跡で出土したという報告があるが、鉄彩青磁の出自に関してはいまだ解き明かされていない。盤口型の口、丸く張り出した肩部から胴裾部にかけてゆるやかな曲線をえがいて、やや外反する器形は12世紀に製作された高麗梅瓶の特徴であり、静かな気品を備えている。



粉青掻落牡丹文扁壺  朝鮮時代 15世紀後半 高23.0cm
  粉青磁は、高麗から朝鮮へと移り行く過渡期に生み出された。粉青磁は「粉粧灰青沙器」の略語で、灰青色の素地に白土を粉粧(化粧)するという意である。

 

 15世紀後半、粉青磁はその名称通り白土で化粧掛けするものが増え、掻落や線刻で個性的な文様が描かれるようになった。さらに刷毛目や粉引という独特の技法が南部地域を中心に定着し、粉青磁は国内だけでなく、「三島」として日本の茶人や数寄者のあいだで珍重された。

 この扁壺は丸みのある壺の両面を叩いて、平らな面を生み出している。白土を掛けた器面に文様を描き、背景部分の白土を掻き落としている。大胆でおおらかな個性を放つ逸品である。




粉青白地鉄絵唐草文高脚杯 朝鮮時代 16世紀 高7.0cm 口径10.5cm
  粉引は刷毛目と密接なかかわりを持ち、全羅南道など一部の粉青磁窯で生産されている。

 

 鉄絵は白土が掛かった刷毛目や粉引粉青の主な装飾技法であり、特に忠清南道公州にそびえる鶏龍山付近で生産された。この杯は器壁が薄く状態が良好であり、描かれた鉄絵文は手馴れた印象を与える。粉引に鉄絵で装飾した愛らしい杯である。




白磁大壺
 朝鮮時代 18世紀 高51.0cm   白磁は、1392年から1910年まで存続した朝鮮王朝(朝鮮時代)のなかで連綿と作られた。15世紀、白磁は王宮専用の御器(ぎょき)とされ、均整のとれた完璧なものが好まれた。16~17世紀には社会情勢の悪化によって生産窯も打撃を受け、白磁の質が低下する。

 しかしその脈は途切れず、18世紀には青花や鉄砂、辰砂などの技術を活かし、多様な器形を作り出すことで以前に増して特色ある白磁を生み出した。
 また18世紀はタルハンアリという満月のような形状やこのような大型の壺が流行し、朝鮮時代の代表的遺産となった。