2005年夏季企画展「朝鮮の美術―新羅の瓦を中心に」2005年7月1日(金)~9月25日(日)
 

青花雲龍文壺 18世紀

開催にあたって

このたびの夏季展では高麗美術館所蔵品のうち、三国新羅および統一新羅の瓦40点あまりを中心に、朝鮮の美術を展観します。

 当館所蔵の瓦には楽浪・高句麗・百済・新羅のほか、高麗・朝鮮時代のものがあり、その変遷を概観することができます。なかでも新羅の瓦が半数以上を占め、三国統一を遂げ10世紀初頭まで誇り高い栄華を極めた新羅国の姿を映し出しています。

 新羅に仏教が伝来したのは高句麗、百済に次ぐ6世紀前半とされています。領土拡大を確立した新羅では高句麗と百済の仏教文化を吸収し、新時代に向け新たな探求が始まりました。そして三国新羅の製瓦技術と文様装飾の伝統を受け継ぎ、朝鮮史上もっとも雅な瓦を作り出したのが後の統一新羅でした。

 統一新羅の瓦には軒丸瓦や軒平瓦、楕円形の瓦、鬼瓦、鴟尾等数種の形式があり、また建物の床敷、壁面にはセンが使われました。蓮華文をはじめ、忍冬文や唐草文、禽獣文等が多様に変化していきます。さらに当時の瓦には新羅と親交の深い唐朝を通じた西域文化の要素も垣間見られます。このように、新羅は他国の製瓦技術を基盤に据え、飛躍的に新しい文化を形成しました。ひとつの頂点に達したともいえる新羅の瓦には、その悠久な史実が反映されています。

 当館所蔵の瓦は過去に数点が公開されただけで、これに重点をおく展示は今回が初めてです。この夏、新羅の瓦を中心とした「朝鮮の美術」をお楽しみください。

開館情報

 ■会 期    2005年7月1日(金)~9月25日(日)
 ■開館時間   午前10時~午後5時  ※入館は午後4時30分まで
 ■休館日   毎週月曜日、但し祝日と重なる場合は翌日休館。  
 ■入館料   一般500(400)円、大高生400(320)円、小中生400(240)円

 (  )内は20名以上でご来館の団体割引料金です。
 また、事前のご予約にて団体解説も承っております。
 詳しくは高麗美術館(電話075-491-1192)まで。


主な出品紹介

蓮華文 円瓦当 れんげもん えんがとう 三国新羅時代 径:10.2
   新羅瓦には高句麗、百済の様式が反映されている。瓦当面にも高句麗、百済の影響がみられ、両者の折衷様式ともいえる丸く盛り上がった素弁蓮華文が多い。また蓮弁の中央に縦の稜線を有するのは典型的な新羅瓦の特徴である。  この瓦当も百済様式と同じように蓮華を真上から覗く状態であらわされ、六つの蓮弁は立体的で量感がある。また、弁の幅は広く、花弁と花弁の間を隔てる稜線は不規則である。中房には蓮子が明瞭にあらわされ、外縁部は高く突出している。



迦陵頻伽文 円瓦当 かりょうびんがもん えんがとう  統一新羅時代 径:14.0
   統一新羅時代の遺物には仏教的な要素の強いものが多く、宮殿や仏教寺院の建設は瓦の需要を拡大させ、文様表現にも躍進を与えた。三国新羅時代の古拙感の漂う瓦当文様は姿を消し、優美な蓮華文を基調として多種多様な図案が展開する。とくに動物の図案を蓮華文と併用するほか、外縁部に珠文をあらわすなど、精緻な文様が表現されている。
 この瓦当面には迦陵頻伽という女性の顔をした鳥が連座に片足で立ち、翼を広げ、手に索を握る図案が表現されている。迦陵頻伽とは梵語の「kalavinka」の音訳で、妙音鳥、好声鳥などと意訳される。仏教では極楽浄土に棲むとされる想像上の鳥で、人頭鳥身の姿をしているという。



有翼獅子文円瓦当 ゆうよくししもんえんがとう  統一新羅時代 径:14.0
  統一新羅時代の瓦には空想上の動物がみられ、西方文化の流入の一端が如実にあらわれている。獅子は迦陵頻伽と同様に仏教の影響を受けて発達した図案であり、仏前に安置される香炉の両脇に鎮座し、仏の教えを庇護する役割をもつ。
 この瓦当面の中央には獅子が正面を向いて座り、すぐさま飛び立つような姿をしている。獅子の周囲には珠文がめぐり、その外圏には花弁帯がめぐる。外縁部にも細やかな輻線条の文様が表現され、文様が瓦当面を埋め尽くしている。瓦当裏面には墨書で「普門寺址 昭和六年冬」と記されている。



蓮華文楕円形瓦当 れんげもんだえんけいがとう  統一新羅時代 縦:10.8 幅:15.1
  瓦当面が楕円形をなす瓦であり、中央の中房は瓦当面全体がそのまま縮小されたような形をしている。中房の周囲には珠文円圏帯がめぐり、外縁部にも同じように珠文円圏帯がめぐる。内区の蓮弁は弁を重ね合わせた状態で表現され、花弁の先端は隅入状にあらわされている。花弁の中央には稜線が引かれており、細やかな文様とともに花弁の優美な様を描いている。また間弁はY字形をとり、素地を埋め尽くしている。
 この丸瓦は垂直ではなく、やや右にくねり、瓦当面に対し斜め方向に接合されている。具体的にどのように用いられたのか、検討の余地を残している。



双鹿唐草文敷セン  そうろくからくさもんしきせん 統一新羅時代 厚:4.0 横:12.6 縦:6.5
  統一新羅のセンは敷センと壁センに分類される。敷センは地面に敷き詰めて使用する建築資材の役割を成すものであり、壁センは建築物を荘厳するため壁面に填装した資材で、慶州四天王寺址の緑釉四天王壁センがその代表的な例である。
 この敷センは長方形を成し、両端は欠損している。上面に唐草文、前側面には向かい合う双鹿が唐草のなかに配されている。いずれも陽刻で文様を施すが、後側面と下面は素文である。
 慶州雁鴨池では側面に唐草文と双鹿を配した宝相華敷センが出土しており、この双鹿唐草文が敷センの側面を装飾したものであることが窺える。また、この敷センは、側面が無紋の方形センの隣に配置され、文様を補足するために製作されたものであることが判る。