2005年春季企画展「李朝絵画の世界」前期:4月1日(金)~5月15日(日)、後期:5月20日(金)~6月26日(日)
 

冊架図 19世紀

開催にあたって

朝鮮時代(李朝時代)の絵画は中国絵画の伝統にならいつつも、朝鮮の自然美と儒教精神を織り交ぜて独自に展開していきました。今日民画や生活画などとよばれている一群の絵画はその一例といえ、朝鮮絵画のもつ独自性が大いに見られるというものです。  学問崇拝を象徴し、立身出世を願った冊架図。迎春の吉祥飾りとして用いた鵲虎図。そして文字と絵画で儒教精神を表現した文字図などはその代表的な作品です。それらは屋内の壁や屏風に貼り付けるなど生活の側面に飾り、日常の願望や心情を表現して価値観を共有しました。  これらの絵画は鑑賞という枠を超えて実生活で活用されてきた特性が見られます。春季企画展では高麗美術館所蔵の絵画や工芸品を通して、朝鮮に溶け込んだ絵画の世界に入り、朝鮮絵画のもつ魅力をご堪能いただける機会となることでしょう。

開館情報

 ■会 期    前期:2005年4月1日(金)~5月15日(日)、後期:5月20日~6月26日
 ■開館時間   午前10時~午後5時  ※入館は午後4時30分まで
 ■休館日   毎週月曜日、但し祝日と重なる場合は翌日休館。  
 ■入館料   一般500(400)円、大高生400(320)円、小中生400(240)円

 (  )内は20名以上でご来館の団体割引料金です。
 また、事前のご予約にて団体解説も承っております。
 詳しくは高麗美術館(電話075-491-1192)まで。


主な出品紹介

冊架図 さっかず 紙本着色 87.8×37.0cm  朝鮮時代 19世紀
  積み上げられた書冊を中心にろうそくの灯った行灯、瓶にいけられた蓮の花、スイカなどがそれぞれ前方や上方から見た多視点描法で描かれる。  冊架図は実用絵画であり、特別に観賞した絵画というよりは屋内の壁や屏風に貼り付け、生活の側面で使用された。学業成就や立身出世の願いが込められた冊架図は子供が勉強する部屋に飾って、その家族の心情をあらわした。 文治政治が主流を成した朝鮮時代。文人たちは書冊や文房具をはじめ、陶磁器や香炉、怪石などの多くの文化的奢侈品で書斎である舎廊房を装飾した。そうしたなかで静物画の題材として冊架図が描かれるようになり、一般にも広く普及した。それらの多くは逆遠近法や多視点描法で表現され、後代には舎廊房の装飾品のほかに動物や果実、野菜なども加えられるようになる。スイカはその発音が「subak」ということから「subok寿福」に通じるといい、広範化した冊架図は吉祥的な意味合いをもって生活を彩った。



文字図「信」 もじず「しん」  紙本墨画 64.2×33.8  朝鮮時代 19世紀
   文字図は儒教の教えが理解しやすいよう、八文字「孝悌忠信礼禮儀廉恥」を絵文字に表したもので、孝悌図ともいう。

 

孝 父母に孝行し、
悌 兄弟仲良く、
忠 国家に忠誠を尽くし、
信 信念を貫き、
禮 礼正しく、
義 義を守り、
廉 清廉な心がけで、
恥 恥をわきまえるべし

という教えを説いたものであり、中国の故事に由来する。文字を中心として故事に関係する絵図が字画の一部となって描かれる。八文字の漢字は一枚ずつに分けて描き、八曲屏風に仕立てて使用された。本図はそのうちの「信」をあらわした文字図であるが、手紙をくわえた一羽の鳥と大きな屋根瓦のある建物がそのまま字画として描かれ、「青鳥信語 白雁傳書」とある。青い鳥がくわえている書信は伝えるとされ、約束や相手を信じていればいつか心が通じ合う、と解いている。




花鳥図 朝鮮時代19世紀
  朝鮮時代の花鳥図はおもに屏風仕立てのものが多く、屏風一曲につき梅や桃、牡丹などの吉祥的な意味合いを内包した植物や怪石とともに対をなす鳥の姿は仲睦まじく朗らかに表現されている。花鳥図は夫婦ともに快活に生きる象徴として描かれた。
 この花鳥図は額装仕立てであるが、もともと六曲屏風であったものの一部である。



風俗図八曲屏風 朝鮮時代19世紀
  農家の人々の暮らしを、四季を追って描いた屏風である。田植えや脱穀の農作業の傍ら、糸をつむぎ、機を織る女性の姿も見える。また、書堂で学ぶ学童や田端で喫煙しながら農作業をながめる上流階級者の姿もある。
 耕織図ともいう本図は四代・世宗大王即位の時代(15世紀)に宮中に備え置くよう、命が下された。衣食の根源である農業や蚕業を理解し、食事をするときや服を着るときに農夫や蚕婦の苦労を知り、庶民生活に関心を深めさせるためとされる



鉄砂雲龍文壺 てっしゃうんりゅうもんこ  高34.0  朝鮮時代 17世紀
 大きな器体に鉄砂でユーモラスな龍を大胆に描いている。通常の雲龍文壺は顔を左向きに描かれるが、本品の場合、右向きである。また、このような大きな器形は上下別々に製作し、それを接合して壺形にするが、往々にして朝鮮時代の大壺には上と下とのバランスの異なものがある。しかしそれが不自然に感じさせることもなく、ユーモラスな龍の顔と相まって不思議な愛らしさを感じさせる。口縁や高台のつくりは17世紀後半に多い壺の様式である。雲龍文壺は朝鮮時代を通じてつくられてきたが、総じて縦長の器形が多い。しかし17世紀は、本品のような横に胴の張った器形の雲龍文壺が見られ、共通して簡略化された雲龍の文様が描かれている。やきものだけではなく、絵画の世界においても簡略化された意匠は見受けられる。



華角箱 かかくはこ 高:32.0 幅:46.0 奥行き:28.0  朝鮮時代 19世紀
 華角とは朝鮮独特の装飾技法であり、牛の角を透き通るくらいに薄く削り、裏から岩彩と膠を混ぜたものを使って華麗な色彩で絵付けをし、膠を接着剤として木面に張り付けた技法である。文様は一般に花鳥をはじめ、長寿・繁栄を願った十長生(太陽、水、松、鶴、亀、鹿、不老草に、山、雲、月、岩、竹などのうちから三種)が描かれる。その吉祥文は女性の生活用品の装飾として多く使われ、物差し・糸巻・小箱等に多い。